社会派で左寄り、と評される事の多い今井正の名作。なんせ ベルリン映画祭金熊賞受賞作品です。そんな作品をこのような 不真面目な場所で紹介して良いのか? 映画は戦後に生きるサラリーマンの中村錦之助(萬屋錦之助)は、 自殺未遂をした婚約者(三田佳子)を看病するうちに、昔読んだ ご先祖様達の日記を思い出す。そこには彼のご先祖の、武士道 (封建制度)に囚われ血塗られた歴史があった…と、江戸時代~ 現代までの残酷小話を7つのエピソードで見せるお話。 物語は江戸時代初期から現代に至り、結局封建制度的な考え、 自己犠牲だの組織大事だの、の考えがDNAに染み込んでるから 利用されちゃうんだよ、日本人!という、今井正らしいメッセージも ある(けっこう身に染みる…)。やっぱり左寄りなメッセージ映画じゃ ないか…ところがそれで終わらしてはいけないのである。 まず原作の南條範男は、経済学の教授でありながら同時に小説家、 しかも「残酷もの」を数多く手がけた作家。この映画の残酷趣味は 原作から来ていると考えねばなりませぬ。ちなみに同じ南條範男 原作の映画は他にもあり、その一本が『士魂魔道 大竜巻』。また 最近「駿河城御前試合」を原作に『シグルイ』のタイトルで漫画化、 またこの作品はWOWOWで、トンデモ流血アニメ化されたそうです (スイマセン、漫画もアニメも見てません)。 そしてこの映画の前年に日本で公開されたのが、あのモンド大明神、 ヤコペッテイの『世界残酷物語』。これに影響されて日本でもモンドな 映画が続々製作され、この『武士道残酷物語』も今井正はともかく、 製作サイドは商売っ気丸出しで作っている気がする。ちなみに 『世界残酷物語』の邦題は、1960年の大島渚の『青春残酷物語』の タイトルを意識してた、との説もある。ヤコペッテイ・今井正・大島渚は 意外なところで結ばれていた。 そう思って見て頂ければ、『武士道残酷物語』も左の社会派映画でなく、 『明治・大正・昭和 猟奇女犯罪史』だの『戦後猟奇犯罪史』だのと 同じフィールドで、私の如き凡俗でも楽しめる映画なのである。7つの 残酷小話にマンガチックな要素もあるし。また中村錦之助の七変化 演技(各エピソードの主役を演じる。時代・老若演じ分けは見事!)を楽 しむ映画でもある。実際この映画上映時の場内には、錦之助ファンらしい 年配の方もちらほら見かけた。 さて7つの残酷小話だが、モノクロ映像で見せる各時代劇パートは、セット も良く出来ており、役者さんの演技と合わせ本格的に楽しめます。ここは 他のモンド物・実録犯罪物作品より金も時間もかかって高尚。それだけに 特攻隊のエピソードが、乗り込む飛行機がもろ戦後、自衛隊の練習機って のがガックリ。なに、特撮で表現しなくても、記録フィルムでもっともらしく 見せる手もあるのに…と思いました。このエピソードが他に比べて安っぽく 見えちゃう。このエピソードに割く時間も少なかったし、少々手を抜いた? でも海外で賞を獲れたのは、「ハラキリ」「カミカゼ」など外人ウケ要素満載 だからかぁ、と納得出来るのですが…オイっ、「チ○コ斬り」は日本史では メジャーな行為ではないぞ(笑)!とツッコミを入れたくなる。明らかな娯楽 悪趣味映画なら外人サンも洒落と判るだろうが、社会派の体裁で作った 映画で「チ○コ斬り」…日本文化がヘンに誤解されてないだろうなぁ! ところで『武士道残酷物語』の次に、日本映画がベルリン映画祭金熊賞を 獲ったのは…『千と千尋の神隠し』。これもある意味「ヘンな日本文化」の 紹介映画。結局そういう視線でしか見てないのか、外人サン!(笑) 1963年 東映 監督 今井正 脚本 鈴木尚也・依田義賢 原作 南條範男 出演 中村錦之助 東野英治郎 渡辺美佐子 荒木道子 森雅之 l 2008年9月18日 シネマヴェーラ渋谷にて鑑賞
(併映 『忘八武士道 さ無頼』) |